jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

「理工農学部への奨学金」は単なる政治家のばら撒き自己満足--日本の国力を高める具体的な産業を提示しなければ,何の効果もない

政府の「教育未来創造会議」で新たな給付型奨学金の案が出ている。理工農学部系の学生や子どもが3人以上の多子世帯に手厚くなるという。

 理工農学部系は実験や実習が多く,授業料が高額になるから補助する,と書かれていたが,これで理工農学部への進学希望者が増える,とはとても思えない。

 そもそも,理学部,工学部は履修科目の範囲が広いので,オールラウンドに勉強が好きでないとなかなか進学できない。しかし,理学部は基本的にサイエンスの研究を目指すが,その先の研究者のポストが非常に少なくなっている。かつての大学教員から教授の道を目指すキャリアパスも非常に狭い。一部のトップクラスでは,研究費が潤沢に確保できる可能性に高い海外のポストに進んでしまう。

 一方,工学部はモノづくりメーカーの働き手や研究者を輩出してきたが,現時点で日本には魅力的なモノづくりメーカーが激減している。大手電機メーカーもパソコンメーカーも低迷している。唯一,輸出でまだ稼いでいる自動車メーカーも,世界のEVカー化の波の中でその存在位置が危うくなっている。エネルギー分野も,現状では海外企業にすべてお株を奪われている。

 小学校から始まったプログラミング教育だが,工学系の応用はかなり少なくなっている。ロボットや自動運転などへ応用するよりも,経済・金融系への応用が多くなるのではないかと考えられ,理工系というより経済・経営系の知識が求められる。AI(人工知能)の応用分野も,翻訳や音声合成,画像処理,画像分析,ゲームなど,理工系とは直接結びつかない。

 理工農学系で唯一,目覚ましい進歩を続けているのがバイオテクノロジー系であり,あとは農業工場や養殖工場など,第1次産業の電子化分野である。しかし,バイオテクノロジー分野は競争が激しく,海外製薬メーカーが基本特許を握るなど,活躍の場がかなり狭いことや,基礎研究も作業の繰り返しが多く,表の華やかさとは裏腹に厳しい就業環境が待っている。電子化農水産業は,地球温暖化の中で安定的な食糧生産をするのに欠かせないと思っているが,事業として成り立たせるのはまだまだ難しい分野である。生き物が相手だけに,データを取ればうまくできる,といった簡単なものではない。

 かつて,高学歴・高収入の医学系も,現在は医療従事者の収入も青天井ということはなく,投資効果が限定的である。また仕事はキツイ,ウェットで,しかも医療訴訟のリスクも高い。東京大学の医学系コースである理IIIも,進学校にとっては「単なる腕試し」であり,実際に医者や医学研究者の道に進む人は半分ぐらいと聞く。

 個人単位の奨学金を増やしても,残念ながら国力にはならないと思う。かつて戦後の日本の国力を作ったのは,大企業であり,そこに優秀な人材を集める求心力があったからだ。20世紀後半の日米の自動車メーカー,電機メーカー,コンピュータメーカー,半導体メーカーが,経済をリードしてきた。2000年以降はアメリカのGAFAGoogle,Amazon,Facebook,Apple)に求心力があったが,これにTesraが参戦している。バイオ分野のPhizerは新型コロナ対応ワクチンで一気にトップに踊り出たが,日本のクスリメーカーは開発も量産もできる体力がない。半導体分野も太陽電池分野も液晶パネル分野も,かつてはアメリカのお株を奪った日本のお家芸だったが,いまや韓国,台湾に開発力も奪われてしまった。太陽電池の量産では,石炭火力発電という矛盾を抱えつつも中国が世界を席巻している。

 シャープが鴻海に経営権を譲り,東芝が株主の意向で経営方針を決められなかったりしている。

 日本の国力を今支えられるのは何かを,真剣に考えるときに来ている。人件費がモノを言うモノづくりでは,もはや日本は出る幕はない。クルマつくりも,EVカーではモーターと電池を積めばだれでも作れるようになっている。外貨を稼いできたモノづくりは,もはや日本の国力にはなりえない。

 メタバースの世界でも,日本の出番は限定的である。第2の世界経済を作るであろう仮想通貨も,日本はまったくコントロールできていない。プラットフォームも,アプリケーションも,日本がリードしているものは今のところ何もない。

 筆者が考えるのは,地球温暖化に対して「水素燃焼発電」の仕組みで世界に貢献することと,「農業工場,陸上養殖」のシステム化を完成させることである。いずれも,プラント輸出という形で世界に供給し,外貨を稼ぐことである 次の有事に日本はどう備えるべきか--世界に対してSDGsの具体的な提案と実行で日本の存在意義を明確にせよ - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/2/19。

 水素燃焼発電に必要なのは,重電,重工業のパワーである。また農業工場,陸上養殖は,それぞれの作物や魚種に対するノウハウと,その電子コントロールプログラムである。ここに,農学部,工学部,理学部のそれぞれのパワーをつぎ込むことで,実現できる。

 つまり,ただ「理学農学系に奨学金を出すよ」と言うのではなく,「日本の次の国力を生む産業を育てる人材育成のための奨学金を出す」と,具体的に言わなければ,結局は「カネのばら撒き」「政治家の自己満足」で終わってしまうだろう。筆者は具体的に提案させていただく。