世の中には,「1人勝ち」を好む人が多い。何を「勝ち」というかは,人によって違いはあるだろうが,名声,資産,リーダーシップ,支配などなど。
だいたいは,地位もカネも権力も,すべてワンセットになる。そこで周囲が見えるかどうかで人格が決まると思う。
1人勝ちなので,2人目が勝つことを認めない。すべて,カネと力で押さえつけようとする。場合によっては,粛清も厭わない。
国のトップになって,1人勝ちするためには,他の国の存在を認めない。これが戦争になる。かつての戦争は,すべて権威主義国家によるものであり,日本もかつて例外ではなかった。
一方,民主主義国家と自称する国は,1人勝ちではなく,仲間と手を結んで連合を作る。最大の連合が「国連(国際連合)」である。しかし,その連合の中に1人勝ちしたい国を入れていることで,結局は「連合」にならない。
自由主義社会における自由競争の経済が,日本を筆頭に一時は成功したのが20世紀後半だった。しかし,自由経済はその中に「1人勝ち」を目指す複数の人物が存在し,結局は「連合」にはならない。いわゆる勝ち組と負け組が出てくるし,貧富の差も出てくる。
一方,権威主義者を中心とする社会主義の国においては,そのリーダーが「1人勝ち」になるような制度や政治,経済が構築されるが,その1人以外は半ばあきらめの気持ちも持ちながら,リーダーに従わざるを得ず,その安定感の中で「それなりの満足」で人生を終える道を選ぶ傾向にある。リーダーに逆らえば自滅するし,従えばそれなりに利益が得られる。出る釘になって打たれるよりは,静かに生きて行こうという気持ちが働く。貧しくても楽しい江戸時代の庶民生活みたいなものである。たしかに江戸時代が200年もある意味で平和のうちに続いたのは驚きである。海外と鎖国していたことも理由の1つだろう。
現代社会において,権威主義国といっても,鎖国状態にはできない。有線ネットワークがなくても無線ネットワークがあり,果は衛星リンクまで登場している。世界中の情報を入手することは可能になっているし,逆に宇宙空間から人工衛星で監視されているので,ある程度までは行動も筒抜けになる。ネットワークを外部から封鎖することも,内部で遮断することも,事実上は困難であり,これがプラスに働くこともマイナスに働くこともある。
自由主義と権威主義は,相容れない考え方であり,鎖国状態に置くことができないため,どこかで衝突する。宇宙はつながっており,海もつながっており,そしてネットワークもつながっているからである。しかも,共存してもいいと自由主義国が考えても,その考えに同意できない権威主義国は,話し合いのテーブルでも合意に至ることは決してない。そして,リーダーの権威をより強大にするために,自国外への進出,侵略,自己主張をすることになる。ミサイルの発射実験や領海侵犯などはその手段の1つであり,脅しをかけることで交渉を有利に運ぼうとする目的の間はまだ我慢できるが,これがエスカレートして1発打ち込んでしまうと,戦争になる。脅しのために使ってきた核兵器が,実戦で使われてしまうと,現時点ではアメリカ,イギリス,ロシア,そして日本の主要都市は10分以内に破壊される。北朝鮮も破壊される。残るのは,中国とインドだろうか。権威主義の最先端の国が残ることで,全世界が江戸時代のようになってしまうのかもしれない。核がなければ,人力が武器になるからである。2国で世界の45%を占めている状況では,他国に勝ち目はない。
ロシアのプーチン大統領は,なぜいまウクライナ侵略を進めてしまったのだろうか。
戦後の日本は,経済的に豊かになることで幸福度が上がった。今となっては残念なことに,物質的な豊かさによる幸福感であり,精神的・内面的な豊かさが伴わなかった。肉体的・精神的に少し辛いがやりがいのある仕事というのがあったはずだが,これを嫌って逃げてしまった。そして「貿易」という商売で利潤を得ようとして,最終的には失敗した。海外でモノを安く作らせて差益を得ようとしたところが,国内の製造業が崩壊して,ただ外貨を放出するだけの国になってしまったからである。
中国がモノづくりを引き受け,権威主義の号令の元で言わば“富国強兵”策が取られた。天皇の権威主義の元にあった日本の明治時代と同じである。しかも,マーケットは世界中にあるとともに自国内にも大きなマーケットがあることで,鎖国したとしても潰れない強固な経済基盤を作り上げてしまった。石炭というエネルギー資源も,自国内にある。1人勝ちできる構図にある。
自由主義国陣営の中に,残念ながら中国に匹敵する資源(材料,人的,エネルギー)を持つ国がない。モノづくりを復活させても,人件費を大幅に抑えて搾取できる中国と違って,コスト競争で勝てる状況がまったく見えない。
習近平国家主席が,まともな地球戦略を出してくれれば,意外にみんな納得するのではないかと思うのだが,法律を曲げてでも異例の3期目に就任したり,自分周辺を子飼いばかりで固めるだけで,世界に向けての提案が何1つ出されていない。だからみんな不安になるのである。
自由主義国家のリーダーといえども,人格者とは限らないことは,アメリカ大統領であろうが,日本の総理大臣であろうが,イギリスの首相であろうが,すでに証明されている。世界各国が集まって話し合おうとする国連が,機能していないのは,ロシアと中国が常に「反対」として拒否権を発動するからである。
このブログのトップにも書いているが,「否定」することは簡単であり,それは野党が常にしていることである。より建設的な「提案」をすることが,周囲を納得させ,合意に至るという人類の知恵ではないか。
ならば,習近平は今こそ,まともな世界戦略案を提示すべきだと,筆者は考えるのである。コソコソと海の底を掘って石油を採掘したり,コソコソと海を埋め立てて基地を作ったり,そういう怪しげな行動ばかり取るから,世界から信用されないのである。「中国が考える今ベストな世界ビジョン」を提示してほしい。もし,物質的にエネルギーや食糧を世界に供給できるなら,今の地球にとっては少しでも理想に近い答えになると思うのである。
改めて提案するが,同じように「日本が考える今ベストな世界ビジョン」を提案するなら,水素燃焼発電,陸上養殖,植物工場,微細藻類養殖の技術を世界規模で運営して各国に利益をもたらす策を打ち出すことである。水素エネルギーについて,2020年に発足した水素バリューチェーン協議会(トヨタ自動車、岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、神戸製鋼所、東芝、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産)を中心に,日本政府もようやく少し重い腰を上げ始めたようだ。
東日本大震災における福島原発のメルトダウンとそれに続く放射能汚染,汚染水の海洋投棄など,日本にはまだまだマイナスのレッテルが貼り続けられている。水素社会,食糧の安定生産を実現し,もう一度,世界に日本の存在を示してほしい。もし,まともな世界戦略を中国が提案すれば,日本の主張などひとたまりもないからである。