たまたま同じ日に中国の2つのニュースを見かけた。技術力で急成長、中国の金属3Dプリンター企業 江蘇省蘇州市,雲南省の「生花工場」を支える科学技術。
3Dプリンターでプラスチック素材を使う場合,ほとんどは試作品づくりであり,形状見本を提案するための生産だったりする。デモンストレーションでは,複雑な形状を作って自慢することが多いが,実用的なものができるわけではない。
一方,金属3Dプリンターは,出来上がった製品が実際に使われるだけの精度と強度を持っているものが多い。なんと,金属製のピストルまで作ることができ,海外では問題になっている(プラスチック製のピストルを3Dプリンターで製作して,実際に殺傷能力のあるピストルを作ることもできる)。その代わり,金属3Dプリンターの装置そのものは非常に高額なものになり,素人が買ってきて使えるといったシロモノではない。
ところがこの中国の金属3Dプリンターは,実用的な高精度の製品を作っている。しかも,金属粉を1層ずつ撒き,そこにレーザー光を当てて金属粉を溶かし,下の層と結合させるという方式で積み上げていく。大規模に展開しているようである。
もう一方の生花工場では,水耕栽培でバラなどの花を工場で自動生産している。工場全体が自動化されており,1年中安定して収穫ができる。その工場の広さも半端ではなさそうである。
筆者がモノづくり関係のメディアの仕事をしていたとき,ただ単純にコンピュータ制御で金型などの複雑な部品を削り出すという機械から,ワイヤーからの放電を利用して金属を切り抜いたり,レーザーやプラズマで板材から自由な形の部品を切り抜いたり,高圧の水で金属板を切り抜いたりと,さまざまな機械を見てきた。試作品を作る場合も,固まりから削り出す方法が主流で,3Dプリンターは見たことがなかった。
その後,3Dプリンターが一大ブームになったが,試作品,デモ製品以外に使われる場面は少なかった。1人ひとり形の要求が異なる医療用部品では使われることはあるが,メジャーにはなりえていない。
しかしこの中国の記事を読む限り,この金属3Dプリンターでしか作ることのできないような精密部品の生産に成功しているようである。
かつての日本も,大きな工場がほぼ無人で動いているのを見かけた。作業をしているのは産業用ロボット。部品を運ぶのも無人搬送車,コンベアでつながって,次々に自動的にモノが生産できる夢のような世界を見てきた。
しかし,工業地帯のすぐ横は住宅地域であり,無制限に工場を大きくはできない。結果,限られた空間にぎっしりと設備を詰め込んだ工場になり,生産効率にも限界があった。
ところがこの中国の工場を見てみると,広い土地に潤沢な投資資金を受けて工場を建設し,拡張していったことがわかる。中国には未開の土地がまだまだある。大志を抱いて資金を投じれば,実現不可能なものはないようにも思える。砂漠地帯に延々と太陽電池パネルを設置して,火力発電所並みの出力の発電施設を作ることも実際に行われている。
業界の参入の仕方も半端ではない。EVシフトするという雰囲気になった途端に,トヨタ自動車クラスの規模のクルマ会社が次々に現れ,瞬く間に世界一二を争う企業に成長した。
何となく,かつての日本の家電産業やパソコンメーカーの業界参入と市場の食い合いを彷彿とさせられる。日本企業の場合は,国内市場で潰し合った末に世界市場は韓国,台湾,中国に奪われて壊滅状態になった。中国のEVメーカーは,世界制覇を目指しているが,アメリカやEUが輸入規制をしたり,インフラが追い付かなかったりでやや勢いに陰りが見える。それでも中国国内市場の大きさはまだまだ可能性に満ちている。国土の広さだけでなく,人口がアメリカの7倍,日本の15倍もあるからである。
その中国が,建設不況で経済成長にブレーキがかかっているのだが,そこは頭を切り替えて,工業で身に付けた効率的な仕組みで農業を活性化し,世界に貢献する方向に舵を切り直してはどうかと考える。
最初に挙げた生花工場は,天候や気候に関わらず安定した生産ができる植物工場の典型例だと思う。付加価値の高い生花だからできるという面もあるが,これを横展開して,野菜工場から小麦工場,お米工場と広げていくことで,国内だけでなく海外へも安定して出荷できるシステムができる。
こうした植物工場については,筆者は日本が取り組むべき産業であると何度も書いてきた。実際,テレビでも話題になったが,宮城県美里町にある「美里グリーンベース」という植物工場では,LEDを光源として野菜をほぼ無人で作る大きな施設が稼働している。しかし,かつてのモノづくり二次産業が巨大な工場への投資をしたような余力が,日本にはもうなくなっているように思えてしまう。
中国の生花工場を見る限り,植物工場としてのノウハウも持っていることが理解できる。「日本の植物工場のノウハウを世界に展開」などと言っている間に,中国はすでに商業ベースで実現してしまっている。太陽電池パネルで発電した電力を使って水素を作る(ブルー水素)大型設備も稼働している。結局,おいしいところは中国に持って行かれてしまった感があるが,その決断力と実行力は,かつて日本が持っていたエネルギーではないかと思うと,残念な気がする。
自由主義貿易で成長した世界経済だが,その中で貧富の格差が拡大し,いまだにまともな食事を取れていない飢餓人口が世界人口の1/3にも上っている。世界をリードしてきたアメリカが,トランプ大統領になって自国中心主義を掲げ,白人中心主義を掲げ,一種の鎖国状態になろうとしている。そうすると,食糧やエネルギーを供給する主導権を中国とロシアという社会主義国が担うことで世界が幸せになるという構図も描けないことはない。
しかし,残念なことにかつての社会主義ではなく,自由経済社会主義に陥り,カネ儲けを第一に考える民間企業が経済を動かしているので,国としてのコントロールが効かなくなりつつある。さらに,カネの流れが表の世界だけでなく,バーチャルな裏の世界に流れていってしまっており,モノづくりや食糧生産といった失敗リスクの高い分野からマネーゲームの世界へとシフトしていってしまっているように見える。
一瞬のうちに何億円という資産を稼げてしまうマネーゲームは,いわば賭博なのだが,その快感を知ってしまった人はもう後戻りができないのかもしれない。何とか,正気に戻って,地球を人類を救う活動に切り替えて汗を流してもらいたいものである。身内に商品券を配ったからけしからんとばかりにチマチマと時間を浪費している場合ではないのではないか。