jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

「解除」から「切り替え」へ

2019年10月の台風19号では,一級河川の氾濫,堤防の決壊を引き起こすなど,大災害になった。「数十年に一度となる大雨」によって大雨特別警報が発表された。洪水警報も発表されていたが,信濃川利根川などの一級河川の堤防決壊は,まさかと思われるような大災害を引き起こした。

 特別警報は,大雨などの「警報」の基準を超える場合に発表され,基準を下回るとこれまでは「解除」されていた。ところが,例えば「大雨特別警報」は「解除」されても,「洪水警報」は「解除」されていない状況があった。一般に洪水は,雨と同時に発生するのではなく,時間差を置いて発生することが多い。「大雨洪水警報」が「解除」されたことで,洪水の危険も「解除」されたと勘違いして,安心してしまうケースが2019年の台風19号で多く見られたらしい。

 そこで気象庁は,「解除」という表現から「切り替え」という表現に変えたというニュースがあった。

www3.nhk.or.jp

 人間はどうしても警報の「解除」=「解放」と考えてしまい,安全になったと考えてしまう。そこで「解除」ではなく,警報への「切り替え」と表現することで,注意を緩めないようにしたということである。

 さてこのことは大変重要なことなのだが,まず国土交通省のHPにも気象庁のHPにも明示的にタイトルに書かれたニュースリリースが見当たらなかった。国民にとって重要なのは,表現を変更したことであり,この点をきちんと伝えたNHKに敬意を表したい。同時に国交省気象庁とも明示的に示すべきではないかと言っておきたい。

 もう一つ不思議なのは,この「特別警報」の中に洪水がないことである。気象庁のホームページによると,特別警報の対象は,大雨,暴風,高潮,波浪,暴風雪,大雪の6つである。気象庁 | 特別警報について

 つまり,通常は大雨の後に洪水が来るのに,大雨特別警報が「解除」されてしまうと,「洪水警報」も解除されたように勘違いする可能性がある。大雨の後,時間差攻撃で洪水の可能性があることを認識し,気を緩めないようにしないと,突然水が襲ってくる,という事態になりかねない。「切り替え」とともに,「引き続いての警戒」を呼びかける必要がある。「大雨警報と洪水警報がそれぞれ出されています」ではなく,必要に応じて「大雨・洪水警報に切り替わり,引き続き洪水に注意が必要です」と伝えるべきなのではないか。マスコミが勝手に言葉を変えることは問題だが,何でも政府の“大本営発表”のまま伝えるのはいかにも能がない。「命を守る行動」だの「緊急事態宣言の発出」だの,「解除」の連呼だの,言葉を扱う仕事としての誇りが感じられないのである。

 さて「解除」といえば,新型コロナウイルスの緊急事態宣言が2020年5月27日に「全面解除」されたが,その後,感染者数がまた増えて,東京アラートが6月2日に発令され,6月11日に「解除」された。「人間はこの『解除』という言葉に弱いらしい」というコメントを6月15日のブログで書いた。

https://jeyseni.hatenablog.com/entry/2020/06/15/065250

 いつのまにか,世の中も「自粛解除」から「自粛緩和」という表現に変わっている。「切り替え」には明確な基準があるが,「緩和」には基準がなくあいまいである。もともと,「自粛」に基準がないのだから,「緩和」はさらに人によって解釈がバラバラになる。

 日本語のこのあいまいさが,世界ではさまざまな誤解を生んでいる。法的な拘束力がない「自粛」で感染者数を比較的少なく抑えられている不思議,微笑みで事を伝えようとするコミュニケーションの不思議,などなど。国会答弁も聞いていてイライラする。かといって,ワイドショーの生放送時の無責任な断定口調を容認する国民性の気が知れない。言葉をきちんと解説できる思慮と時間が必要と考える。