2024年のコメ価格高騰の余波は,2025年の新米の季節になってもまだ収まらない。専門家の予測はやはり当たらなかった。一方で,JAが2025年の概算金を上げるだろうという予測は当たった。
概算金のベースとなるのは,その年の秋以降の予想市場価格だという。ということは,トランプ関税などの影響で,輸入肥料の値上げや農機の燃料であるガソリン費などの高騰や,従業員の給与などの人件費の増加,海外からの研修生の激減など,経費の増加は当然見込まれる。これを予測して概算金を上乗せしたと考えられる。
しかし,JAの概算金は一種のバイアスになる。この提示がなければ,農家はさまざまな努力で経費の節減を図り,商品価格への上乗せをなるべく削り,消費者に喜んでもらう努力をするのではないだろうか。JAがヘタに概算金を示したことで,一定の利益を確保した上でそれ以上の努力はしないだろう。
もっとも,JA指導によるコメの流通は全体の半分以下。残りの流通を量販店などの一般流通が引き受ける。より多くの流通量を確保するために,概算金を上回る価格を農家に提示する。これではJAが流通量を確保できないので,概算金への上乗せを提示する。概算金より下がることがない一方,シーリング(天井)はない。
一方で,日本国民のコメ消費量は減り続けている。2024年の価格高騰は,天候不良による不作と,海外からの旅行者の増加によるインバウンド需要の増加による需要と供給のバランスが崩れたことによると見られる。2025年は前年の不作への農家の対策努力によって収穫増が予測された。本来なら価格は下がるはずだが,JAが高く設定したコメ概算金によって市場価格が下がらない。せっかくの新米の価格が高いために売れない。
いったん前払いで受け取った概算金を,市場状況に合わせて下げたとしても,農家が返還するはずもない。概算金を下げないから市場価格も下がらない。
しかし,JAが提示する概算金の元になっている各種の経費の積み上げ情報は,実は農家から出されたものだとすると,農家自身が価格誘導をおこなっているという見方もできる。自分たちの利益を減らさないためである。すでに高い概算金をベースに売ってしまっているので,何もいわない。困っているのは流通ルートと消費者,ということになる。
日本人が前年以上前の備蓄米でようやく急場をしのいだ間も,インバウンド需要では高額な料理が提供されていた。かつての米騒動では,一般飲食店でも外米とのブレンド米を使うなどの非常事態だったが,令和の米騒動ではインバウンド向けには最高品質のコメが提供されていた。言い方が変だが,日本人が古古米を食べ,外国人が新米を食べるというおかしな現象となり,これが現在も続いている。
いいコメは高くして輸出してもいいが,同じ品質のコメを国内ではリーズナブルな価格で流通させ,コメ需要の減少を食い止める必要がある。そのためには,JAの概算金提示が問題であるということになる。農家を守るという名目の元に既得権益を得ているJAが,やはりカギを握り,そして諸悪の根源であり,そこにさらに農家が裏で糸を引いているといった古い構造が,価格高騰が続く原因だと思われる。
一方で,政治もタイミングが悪く,農政改革をぶち上げた小泉農林大臣も,自民党の党首選ですっかり積極策を出さなくなった。JAの解体論もウヤムヤになっている。自公連立の解消で,次の首相も,政策も見えない状態になっている。小泉氏も最後の活躍のタイミングかもしれない。ここで少なくとも農政について何かを語らなければ,将来のポストの可能性もないと言っていいかもしれない。