8月に入ってしまった。当初の予想どおり,新型コロナウイルスは暑い時期には減らなかった。当初からシンガポールやフィリピンで感染拡大していたし,2002年のSAASが台湾で拡大したこともあり,想定内のことだった。
SAASをきっかけに,夏でも外出時にマスクを着用して18年の筆者にとって,夏場にマスクをしていて熱中症にならないように気をつける習慣はできている。マスク着用の習慣のないほかの日本の人や,世界中の人は,大変だろうなと想像する。
18年間着用していたのは,いわゆる不織布製の使い捨てマスクである。6月を過ぎてようやくまずまずリーズナブルな価格で手に入るようになったので,基本的に外出時はこの市販の使い捨てマスクを使っている。正直言って,「ナツノマスク」と呼んでいる布マスクやスポーツマスクなどよりも,他の人の飛沫拡散をフィルタリングする効果は高いことが期待されるからである。また,自分が感染して無症状である場合の,唾液飛沫飛散の防止効果のほか,咳・くしゃみ時のマイクロ飛沫拡散のフィルタリング効果も期待できる。もちろん,咳・くしゃみエチケットで,マスクが浮かないように押さえる必要はある。息はややしづらいが,どうせ汗もかいて汚れるわけだから,夏場のマスクとしてはこの不織布製使い捨てマスクが一番望ましいと考えているのである。
これに対して,「ナツノマスク」として一般の人が着用している布マスクや,スポーツマスクは,他の人の飛沫拡散を防ぐ効果は全く期待できない。自分が無症状で感染している可能性がある場合,自分の唾液飛沫や咳・くしゃみ飛沫を拡散させないのに効果があるだけである。しかも最近の実験では,咳・くしゃみ時のマイクロ飛沫の拡散をフィルタリングする効果はほとんどない。唾液の飛散を抑える効果があるにすぎない。
しかも,使い捨てマスクにくらべて,顔を覆う面積が広い。頬も完全に隠れるし,第一に顔にピッタリくっついた状態になる。冷感マスクだの,通気性のいいマスクだの,夏向けにいろいろと宣伝されているが,結局「マスク」としてのフィルタリング効果はどんどん落ちていく。また夏場に顔にかく汗もたっぷり吸い込むので,毎日の洗濯も欠かせない。一般の人は2枚を交互に毎日洗濯して使うなどということを続けられるのだろうか。肌色やグレー,黒いマスクがけっこう流行っているが,実は汚れが目立たないので頻繁に洗濯しなくて済む,というメリットがあるから使っているのではないかと疑ったりしている。
その中で,安倍首相のマスクが自ら国民に配布した「アベノマスク」ではなく,市販と思われる布マスクに変わった。「いろいろな選択肢ができた」と言っているが,国民からのアベノマスク不支持を認めた格好かと思われる。
しかし,前にも書いたが,「アベノマスク」は顔を覆う面積が小さいので,実は夏場向きのマスクなのではないかと思っている。頬が十分にあいているからである。安倍首相には,この点を主張して「アベノマスク」の継続使用をしてほしかった。
さて,夏場の新型コロナウイルス対策と熱中症対策の同時進行をするにあたって,「こまめにマスクは外してもいい」という指示が出されている。人と話をしないときや,比較的空いた街中を歩くときなどはマスクを外してもいいというのである。これはもちろん一理あるのだが,そうすると1日のマスクの着脱回数が増えることになる。
マスクの着脱回数が増えれば,マスクに手が触れる回数も確実に増える。問題なのは,マスクに手が触れることによって,マスクや手指を介した接触感染リスクが大幅に高まることである。
そこで,テレビ番組では「正しいマスクの取り扱い方」と称した実演がされている。最近紹介された方法では,①マスクのヒモを持って外す→②マスクを横長に二つに折る→③鼻のところに作った山を壊さないように袋に収納する...というものである。これは,マスクの内側をなるべく汚染しないようにする配慮だという。もちろん,収納する袋の内側は,適宜アルコールで拭き取るなどが紹介されていた。
鼻の形を崩さない,というのは,使い捨てマスクによくある針金でW形を作って鼻にフィットさせる機能のことだが,この形を崩さないというのは言うは簡単だが実に難しい。結局,再度取り出して着用する際,この鼻の部分に手で触れて,再度フィットさせる必要がどうしても出てくる。テレビのデモンストレーションでも,結局マスク面に触れて形を整えていた。おそらく,テレビで紹介するために何度も練習し,専門家の指導も受けたはずなのに,それでも自然に触れてしまうのである。
以前は,外したマスクは,マスク面を下にしてそのままそっと机の上に置きましょうという紹介をされていた。マスク外側にウイルスが付いているとすると,これでは店舗の机にウイルスを付着させる行為になると思って反対の意見を持っていた。
ということで,筆者はこれらのおまじないのような取り扱い方の成果には否定的である。どうするかというと,さっと外して袋に入れ,そのあと手指のアルコール消毒をする,再着用して顔にフィットさせたら,その手指をもう一度アルコール消毒する。つまり,こまめな手指消毒の方が効果的だと言いたいのである。
さてここまでの話は,マスク着用者がウイルスに感染しておらず,マスクの外側にウイルスが付いている可能性のある場合である。医療従事者の方が,患者さんを診断した際,マスクや防護服の外側には大量のウイルスが付着しているため,マスクの取り外しにも細心の注意が必要である。耳ヒモをつまんで外すという動作は,まさにこのような汚染されて接触によって感染を受ける可能性のある医療用マスクのことである。
正直,一般の人の着用しているマスクで,その外側に「手指で触れるだけで感染する」ほどの大量のウイルスが付いているケースは,現時点でもほとんどないのではないだろうか。話相手がマスクをせず,至近距離で話をしていれば,自分のマスクに相手の唾液飛沫が付くことはあるだろうが,街でのすれ違いや店舗での会計,また一番危険と思っている電車やバスの中でさえ,そこまでマスク外側にウイルスが付着しているとは思えない。指導の仕方が違っているのではないかと感じている。
一方,自分が無症状で感染している場合は,マスクの内側に唾液飛沫が付き,したがってマスク内側に大量のウイルスが付着していることになる。この場合は,すでにマスク内側が汚染されているわけだから,単純に二つ折にして,ポケットでも入れておけば感染を広げることはない。店のテーブルの上に置いたとしても,わざわざマスクの内側を机に付ける人はいないため,テーブルへの感染もない。この場合も,マスクを外した後や付け直した後に手指のアルコール消毒をすれば,その後の接触感染拡大を減らすことができる。
いずれにしても,外したマスクを無造作に扱うことは避けた方がいいが,付け外しをした後に必ず手指消毒をすればいいと考えている。マスクを外した後に手指消毒をし,さらに使い捨てのオシボリで顔も拭いて,顔に付着しているウイルスも拭き取れるだけ拭き取った方がいいだろう。人は一日に300回ほども顔を手を触るクセがあるようなので,とにかく手指をこまめに洗ったりアルコール消毒したりすることが,マスク着用と並行して実施しなければならないことだと考えている。
今現在,携帯できるアルコールジェルを持ち歩いて,こまめに使っている人はどれほどいるのだろうか。筆者はもちろん,常に持ち歩いている。
外したマスクを収納するおしゃれなケースが人気だという。これも,マスクの外側がウイルスに汚染されていることを前提に話がされている。ポイントはそこではないと思っている。マスクの着用とこまめな手指消毒の併用がカギであると考えている。