ファブレス,製造受託という言葉を聞いたのは20世紀の末ごろだったろうか。半導体製造でアメリカや日本,韓国の企業がそれぞれ自前で巨大なクリーンルームを作り,より微細な半導体を製造に注力していたころ,台湾企業TSMCが他社の半導体を受託生産するというビジネスモデルで登場した。
当時,パソコンのベースとなるプリント基板を,台湾企業がそっくりそのままコピーしてパソコンを作ってしまうという動きがあった。ベースとなる基板はアメリカのIntel社が作っていたが,さまざまな形状に合わせて柔軟な基板に変更して使われた。その後,中国でも基板が製造され,台湾と中国がノートパソコンの中心的な製造地域になった。
液晶パネルは日本の独壇場だったが,技術や人材が流出し,巨大な財閥が支える韓国企業と台湾企業が一気に先頭に立った。これに中国企業も加わった。日本の液晶パネル企業は合弁で対抗しようとしたがすべて失敗した。
2024年が終わろうとしている現在,世界の半導体製造は台湾のTSMCがほぼ牛耳っている。一方で,半導体やEV用電池などに必要なさまざまな原材料を中国が握っている。
TSMCが半導体工場を日本やアメリカ,ドイツに建設を進めている。同社は中国本土にも工場を持つが,台湾と中国の緊張関係から見ると安全保障上,欧米側に分散させる必要があるという事情が見えてくる。
一方で,台湾が中国寄りの政権にならないとも限らない。何しろ,すでに軍事演習でも見られるように台湾を取り囲んだ軍事作戦はすでにいつでも実施可能な状況にあり,中国本土からのミサイル攻撃の標的にもなりうるからである。
日本が戦後,家電やクルマなど高品質で低価格な製品を世界に供給してきたのは,世界の人々の暮らしを豊かにし,平和な世界を作ろうという考えがあったからだと筆者は信じている。より速く,より快適にという技術開発によって経済大国になったことが,世界中の発展を目指す国にとってモデルだったはずである。
しかし,現在の世界の技術開発は,再び各国のいがみ合いのための道具に使われてしまっている。ロケットや人工衛星はもともと軍事技術だし,ドローンやロボットまで軍事転用されてしまっている。そのコントローラーに使われる半導体が,中国と台湾,そして東側と西側との対立のタネになっている。
日本のメーカーも,高度経済成長期には「作り過ぎ」るほどの量産を進めて,お互いに市場の食い合いをしていた。しかし現在の中国は,太陽電池パネルやEVをほとんど見通しないほど量産してしまっているように見える。特に太陽電池パネルは,まるで万里の長城を築いてきたような勢いで中国各地の広大な土地に配置している。再生可能エネルギー施設が逆に地球環境に悪影響を及ぼしているのではないかと思えるほどである。EV用のリチウムイオンバッテリーも同様だが,そのリサイクル技術も確立されていない。将来が心配になるほどである。
AIの進化が止まらず,人間の処理能力を超えつつあると思える。本当にこれでいいのだろうか。
2024年のノーベル平和賞に,日本の日本原水爆被害者団体協議会(被団協,日本被団協)が選ばれ,12月10日に授賞式が行われる。広島と長崎で原爆の被害を一般人が受けた日本が,核兵器の廃絶を訴え続けてきた1つの象徴とも言える。核兵器はなくそう,というメッセージは発せられるだろう。しかし,その先の「戦争をなくそう」というメッセージにはならないと筆者は個人的に思う。ウクライナ侵攻,ガザ侵攻に加えて,シリアの内戦も一向に収まる気配がない。ここで使われている兵器は,昔ながらの銃や砲弾を中心に,ハイテクなミサイル,ドローンが加わっている。核兵器を使わなくても,何万人もの一般市民が死亡してしまっている。
「戦争の道具を使わない」宣言をして経済発展した日本が,経済で破綻しているのは,戦争にも使われるようなハイテク技術の開発・生産をしなかったためである。いまさら,被団協がノーベル平和賞を受けて声明を出したとしても,世界には響かないと思うし,「西側の勝手なマッチポンプ」と言われてしまうと思う。それにしても,筆者も戦後生まれのはずだが,被団協という存在を今回初めて知った。広島や長崎の平和式典は毎年意識していたが,この1団体に対してのノーベル賞の受賞に何か意味があるのかと,正直言えば疑問視している。
AIの進展による人類の危機論も出ている。アメリカのトランプ次期政権でのとんでもない政策が世界を大混乱に巻き込む危険性もある。ロシア,中国,北朝鮮,グローバルサウスが一体化した「第2の国連」ができて完全な対立構造となる可能性も否定できない。世界中に数万発もある核兵器が使われないという保証はどこにもないが,その標的が無防備な日本と,ハイテク拠点の台湾に向けられる確率は極めて高いと思える。
今,日本が発すべきメッセージは,平和がもたらす経済の豊かさであり,それに必要なのは武器やエンタメのための半導体ではなく,食糧とエネルギーと環境維持技術であることを,発信してほしい。喧嘩してモノを破壊し,相手を殺している今のパワーを,平和,安全,豊かという方向に向けるようなメッセージを発してほしい。その中心的な役割を持つのが,天皇家だと信じている。できれば,ノーベル平和賞受賞に合わせて,世界に停戦を呼び掛けてほしいと思うのである。上皇さまご自身も,正直言ってもう後がない。今が最後のチャンスだと思うのである。前例にとらわれず,メッセージを発していただきたい。