jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

切り札,手駒は使いよう--ウクライナ紛争解決に「オールマイティ」はなかった

ウクライナ紛争の終結に向けて,リーダーシップを発揮しているのがアメリカのトランプ大統領である。2025/1/20の就任以前から「大統領に就任したら1ヶ月でウクライナ紛争を終結させる」と豪語してきたが,2/12にはロシアのプーチン大統領と電話会談,2/28にはウクライナのゼレンスキー大統領をホワイトハウスに招いて直接会談した。このときは,さまざまな感情的なすれ違いがあり,ディール(交渉)の切り札として提示していたウクライナの鉱山採掘権での合意には至らなかった。

 3/17に今度はトランプ大統領プーチン大統領と電話会談し,30日間の空爆停止を提案したが,プーチン大統領はエネルギー関連施設への空爆条件は飲まなかった。すると今度は3/18にトランプ大統領がゼレンスキー大統領と電話会談し,ウクライナにある原子力発電所の所有権をアメリカが持つことを提案し,ゼレンスキー大統領がこれを飲んだ。つまり,ウクライナ国内にいわばアメリカ統治領ができた形になる。これにより,ロシアがエネルギー施設を攻撃することがアメリカに対する攻撃に相当する形となるため,ロシアがエネルギー施設への攻撃を含む停戦に応じる流れとなった。

 こんな流れを誰も予想しなかったと思う。筆者ももちろん予想はできなかった。2/28のトランプ・ゼレンスキー対決の後,とりあえず「非礼は詫びる」ところからゼレンスキー氏は歩み寄ることを提案--やはりTシャツ姿はまずかったのではないか - jeyseni's diary(2025/3/3)とはコメントしたが,トランプ大統領はもう1枚のディールとなるカードを提示してきたことになる。筆者の知る限り,原発施設の所有権取得について可能性をコメントした“専門家”,コメンテーターはいなかったと思う。

 妥協と取引は違うのだなと改めて思った。筆者は当初,ゼレンスキー大統領は国民の命を守るために親ロシア派住民の多い東南部はロシアに割譲して,ウクライナらしい国境線で妥協して戦いを終結することが,国益につながると考えていた。戦いには負ける形にはなるが,平和という何事にも代えがたい代償を得ることができるからである。しかし,ゼレンスキー大統領は一歩も引かず,さらにヨーロッパの西側諸国を引き込んで,対ロシア戦線を構築した。元々ロシアに対抗するために構築されていたNATOを巻き込んだ形である。それはロシアの核の脅威が背景にある。

 一方,NATOの一員でもあるアメリカからすると,ヨーロッパははるか遠くの問題である。ヨーロッパのことはヨーロッパで考えればいい,とアメリカ・ファーストを標ぼうするトランプ大統領が考えたのもうなづける。何しろ,アメリカがNATOへの負担金が一番多いとしてNATOからの脱退を口にするほどだったからである。

 NATOに加盟しているヨーロッパ諸国からしても,NATOに加盟していないウクライナに対して対ロシアとの紛争に手を出すかどうかは微妙な問題だっただろう。今回のトランプ大統領のような原子力発電所の所有権をイギリスやフランスが主張したとしたら,逆にロシアから攻撃を受ける口実を与えてしまうことになる。

 ここは,仲介役のような顔をして,ヨーロッパと距離を置いた立場でディールを持ちかけたアメリカ・トランプ大統領のカードの使い方の巧妙さが光った形となる。

 トランプで言えば切り札,将棋で言えば手駒。交渉のためのツールは,ここぞという場面で威力を発揮する。今回の切り札は,おそらく誰も思いつきもしなかったのではないだろうか。それほどやはり,交渉術に長けていると思った。

 太平洋戦争で敗戦となった日本は,海外で占領した土地をすべて奪われたばかりか,元々の領土である北方四島や沖縄も奪われた。戦力も放棄させられた。しかし逆に平和という価値と天皇制の維持,日本語の維持という文化面は確保できた。事と次第によっては,公用語を英語にするなども考えられていた。その後,日米安保条約アメリカに守られながら,日本人としての一致団結で経済を建て直して発展させ,世界2位の経済大国にまで上った。日本人の心の奥に流れていた天皇への気持ちをマッカーサーに伝えるというディールが働いたことと,2000年という欧米よりはるかに長い歴史の持つ重みが連合国との切り札になったのだと思う。

 まだまだ領土交渉でゼレンスキー大統領が妥協する気配はなく,引き続き長い交渉が続くことが考えられる。アメリカもいつまでも原発所有権を維持するつもりはないだろう。

 筆者としては,このままロシアもウクライナ武装解除し,ウクライナ東南部はロシアに割譲し,両国がそれぞれ,世界が求める穀物の輸出を黒海から世界に向けて発進することで,今,世界が苦しんでいる食糧不足に対して両国が貢献するという形を作ってもらえるとうれしい。そもそも,プーチン大統領が単に過去に奪われた領土を取り戻したいという子供じみた単純発想で戦争を仕掛けたのが間違いで,「世界の食糧危機を府解決するために,お互いに協力して穀物輸出を拡大しよう」という交渉をして,ウクライナ領土内を無条件で行き来できるような関係の交渉をすべきだったのではないだろうか。どうもただ単純に,「ゼレンスキーというヤツは嫌いだ」といったところから,話が始まったような気もする。紛争が大ごとになってしまったことについては,だれかの言葉ではないが「猛省して適切に処理する」とは言わないのかもしれない。