2022/1/16~17にかけての大きなニュースが,南太平洋のトンガ王国近辺で起きた大規模な海底火山の爆発と,それに伴う各地の“津波”の襲来である。噴火から警報・注意報発令,解除の流れを整理しておこう。
日 | 日本時間 | 現象 |
1月15日 | 午後1時10分 (現地午後5時10分) |
海底火山爆発 |
午後7時 | 津波の心配なしと発表 | |
午後7時58分 | 父島で潮位変化を観測 | |
午後11時55分 | 奄美で1m20cmの潮位変化 | |
1月16日 | 午前0時15分 | 奄美群島・トカラ列島に 津波警報,その他注意報を発表 |
午前2時54分 | 岩手県に津波警報 | |
午前7時半 | 奄美,トカラを注意報に変更 | |
午前11時20分 | 岩手県を注意報に変更 | |
午後2時 | すべての注意報を解除 |
海底火山の爆発による“津波”が起きること自体が100年に1回という珍しい現象だそうで,観測データがこれまでにないこともあって,気象庁はこれを津波と呼んでいいかどうか,判断に迷っているとのことである。また,通常の地震による津波の予想到達時刻よりも1時間以上早く潮位の変化が見られたことも,「津波とは異なる現象」と言っている理由のようである。
報道各社を含めて,大きな誤解は,津波を「波」だととらえて語っている点である。津波は波ではないことは,以前のブログでも書いた 「氾濫」と「決壊」をきちんと区別して報道してほしい - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2021/7/16。
今回の火山の爆発は,当然のことながら噴火による大量のガスの塊が海底から海上に移動し,して噴煙として立ち上る。その際,海底火山の上部の海水を左右に押しやって上昇してくるので, 【訂正】今回の火山爆発は,火山島を形成する火山の噴火であり,海底からの噴火ではない。「海底火山」という報道は不適切な表現であると指摘する。噴火によって火山島の陸地部分が消滅している。陥没によって海面が下がり【訂正終】,海水自身が移動させられる。これが周囲に移動するのであり,水が移動せずに振動が伝わる「波」という解釈は間違っている。波なら当然,距離が進めば減衰するが,水の動きは同心円状だけでなく,ある方向にはほぼ一直線の波の形で移動するため,減衰しないのである。同じように,海岸線にある山が崩れたり,氷河が大量に海に流れ込むなどが原因の崩落による津波も各地で懸念されている。北アフリカのカナリア諸島の島が崩壊すると,対岸にあるアメリカが津波による大きな被害を受けるという推定もある。
もう1つ疑問として,日本に到達する途中にあるハワイやフィジーで30cm程度だった海面上昇が,日本で1m30cmにもなる理由がわからない,という点が挙げられている。しかし,これも簡単な理屈である。日本に至る途中の海域は海底までの深さが深いため,移動する水の圧力が分散され,上昇分が少なくなる。一方,日本近海は大陸棚となり,深さ数百mと浅くなる。その分,水面の高さが増す。東日本大震災による津波が,外洋よりも海岸線で高く盛り上がり,甚大な被害を及ぼしたことは明白である。したがって,今回の海底火山爆発による海面上昇は,津波と呼んで差し支えないと思うのである。
海水面の上昇時刻が,津波としての予想到達時刻よりも早かったことで,これを津波と呼べないという話もある。ある気象予報士の理論によると,火山の爆発時に生じた衝撃波「空振(くうしん)」が,水の波とほぼ同じ速さで拡散し,この振動が伝わる前にこれにつられて海面上昇が起きたというのである。ちょうど,日本で第1波の海面上昇があったときに,気圧が20分間に2hPaほど急上昇し,また急激に下がるという現象が観測されているからである。
筆者としては,この空振の影響というより,海底での爆発の衝撃波が海中を先行して伝わり,日本には津波よりも早く到達したのではないか,という考え方を提出したい。
空振は空気中での音の衝撃波なので,秒速約340mというレベルだろう。津波もこの程度のスピードらしい。一方,水中での音の速さは秒速約1500mと圧倒的に速い。もちろん,海底の地形は複雑なので,まっすぐ伝わるわけでなない。この衝撃波が先に到達し,海面に変化を及ぼしたという考え方である。
これほどの海面上昇を招いているので,気象庁にはたとえば「海底火山爆発による津波」と定義して津波に認定してほしい。またこの「波」でないものを「波」と呼ぶ不自然さもできれば解消してほしい。「海水塊」あるいは「海水弾」というのが正しいと思ったりする。
トンガ王国との通信が混乱していることや,各国でも津波による海面上昇の被害が出ている。日本でも,漁船が転覆したり,ノリ養殖棚が流されたりといった被害が出ているが,幸いにも死者は出ていないようである。東日本大震災のときの津波の被害を思い出させる。このトンガの海底火山は,かなりの頻度で爆発を起こしている。今後も注目していく必要がありそうだ。さらに,南海トラフ地震の可能性も含め,まだまだ災害に備える必要があるのだと実感させられた。