jeyseni's diary

「ジェイセニ」と呼んでください。批判ではなく提案をするのが生き甲斐です。

チグハグな日本の「可視化」技術--木を見て森を見ずの科学立国政策・自衛隊政策に失望感【追記】

テレビ朝日系のドラマ「科捜研の女」シリーズが終了した。1999年後半スタートで22年間も続いた。最初の頃はあまり記憶にないのだが,科学好き,分析好きにはたまらないドラマだったと思う(ただ単に筆者が好きだった,というだけですが)。

 科学捜査で犯罪の加害者,被害者を特定するというストーリーの中で,かつての顔写真や指紋,血液型中心の操作に,遺伝子解析,成分解析,画像解析が加わって,DNAの一致不一致が決定的な証拠となるなど,犯罪捜査が一気に進展した様子が理解できた。従来の指紋や足跡採取も,従来からの物理的な方法に加えて,写真からの分析や特殊な光を使った痕跡取得などが導入され,泥臭い面とスマートな面がきちんとストーリーに組み込まれていたのも好感が持てた。警察犬による探索,刑事による足を使った聞き込み捜査,法医学による司法解剖などもきちんと入っていた。

 ここ5年ぐらいは,より新しい仕掛けとして,ドローンや地中探査スキャナー,そしてサイバー担当部署との連携なども組み込まれていた。科学捜査がさらに進歩しているのを感じた。

 しかし同時に,犯罪側もより危険度と無差別度を上げている現実が怖い。本来なら,ドローンが単なるリモコンヘリではなく,無人化やAI化によって高度に悪用されるケース(無差別爆弾攻撃ドローン)や,より高度化するサイバー犯罪などに対して,科捜研がどんどん切り込んで解決するシーンが見たいのだが,おそらく残念ながら犯罪の方が先に行ってしまって,捜査がもう追いつかない状況に陥っていることが,このドラマを終結させた理由ではないかと想像する。犯罪者側が「人工知能が正しいと判断した」と平気で言う終盤の放送回では,「AIが予想しなかった人側のミス」が犯罪確定の証拠となったが,この人側のミスがなければ,おそらく捜査は行き詰まって解決できない状況になっていただろう。現実世界でも,すでにAI技術を使った犯罪を見破ることが困難な状況になりつつある フェイク画像・フェイク音声を作るAIなんて,もはや人新世(アントロポシーン)の終わり--AI新世の到来か - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/3/10。

 緊急時の高解像画像衛星やスカイホークの利用はできなかったものか--観光船沈没事故 - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/4/27 とこのブログに書いた。初めて,気象衛星から撮影された地球の雲の様子を見たときは,本当に感動した。筆者が小学生の頃はまだ,NHKラジオ第二放送の「気象通報」で,日本各地の50個所ぐらいの測候所が観測した「風向・風力,天気,気圧」が順に読み上げられるのを書き取り,高気圧,低気圧,前線の緯度・経度・気圧を聞き取り,これを白地図に書き込んで,気圧の等圧線をイメージして引き,天気予報を自分でしていたものだ。当時も,地点と地点の間の等圧線の引き回しを,自動的に計算させれば一気に等圧線が引けるな,と考えていた自分を思い出す。

 現在の天気予報は,全国に1300個所もあるアメダス気象観測所のデータを時々刻々集計し,コンピュータが分析して天気図を自動的に描き,またその傾向から数時間後,数日後までの気圧配置を予測し,天気予報を出すようになった。これにさらに正確なデータを加えているのが,人工衛星画像である。しかも可視画像だけでなく,赤外線などさまざまな波長で観測したデータが取得できる。初期はおそらく1時間に1枚ぐらいしか取得できなかったデータは,現在は10分間隔ぐらいで取得されているかと思われる。

 科学技術は,人間に素晴らしい恩恵をもたらすと同時に,悪用に対して歯止めを掛けにくい。写真という一瞬の時間を切り出した真実であっても,これをコンピュータで簡単に加工し,捏造されると,フェイク画像,フェイク映像,フェイク音声となって,犯罪や情報操作に使われる可能性が出てくる。ウクライナ侵攻における現地映像や衛星画像も,本当の真実を伝えているのかどうか,疑いを持って見る必要が出てくる。意図的に相手に不利なように画像加工することは,簡単にできるからである。

 世界中のマップを作ってしまったGoogleは,その次にストリートビューを作ってしまった。地図上で番地を入力して拡大していけば,本当にその場に立って周りを見回した画像を見ることができる。個人のプライバシーの侵害の問題は回避できず,Google Mapを利用した犯罪も増えており,これももう収拾がつかなくなっている。

 同様に,軍事衛星や無人探査機の映像を利用して,まるでテレビゲームをするように目標にミサイルを打ち込んだりする戦争が現実に起きてしまっている。ミサイルに核弾頭を搭載すれば,バーチャルな戦いからリアルな人類の破滅へとつながりかねない。今その瀬戸際に来ている。これも,科学技術の「悪用」である。

 逆に,日本人はこの科学技術の悪用を恐れすぎた結果,あらゆる分野で欧米諸国や東アジア諸国,中国などから取り残されてしまったとも言える。いわゆる「倫理」という点で,日本の科学者はバッシングを避ける保身の道を選んでしまった。初めて心臓移植を執刀した医師も告発されたし,遺伝子操作でも技術的には可能と分かっていても,倫理観による抑制が働いて一歩を踏み出さなかった。原子力分野でも同様であり,原子力関連技術者や研究者は常に批判に怯えてきた。

 しかし,軍事力を持つ国では裏で着々と技術開発が行われてきた。核兵器化学兵器,人体実験,超高性能軍事衛星など,国家予算の20%から50%も軍事技術に投入して開発を進めてきた。その一部はGPSという筆者も恩恵を受けている位置情報システムとして民間への転用がされているが,まだまだ大部分は軍事というベールを被っている。2足歩行,4足歩行のロボット開発を見ても,日本がいかに取り残されているかがよく分かると思う。

 さて,本題の「可視化」技術だが,日本の研究者,技術者はあまりにも「ミクロ」な世界ばかり見ているような気がする。それもただ見ているだけで,どう活かすか,という応用の視点がほとんど感じられない。したがって,いい発見をしても,特許化もできず,気がついたら手も足も出せない状態になっている。

 ロシア製のドローンが,日本のデジタルカメラGPSを積んで飛んでいる,という報道があるが,別に安物の部品を積んでいるのではなく,それぞれ日本の最高の技術で出来上がった製品で,個々の技術は光るものの,これをさらに応用展開する,という視点が日本にはない。防衛用,軍事用へのドローン応用について,日本の防衛省がかたくなに拒否してきたという報道があったが,新しい技術を導入することで,これまでの指揮系統が崩れることへの恐れだったと見られている。オフィスへのパソコンの導入に中年以上が付いていけなくなっていたのと同様である。

 知床半島での観光船遭難事故にしても,世界中の人工衛星からの画像情報を集めて分析すれば,沈没前の船の位置ぐらい特定できたのではないかと思うのである。この「世界中の人工衛星」のほとんどは軍事観測衛星と,一部の欧米の民間衛星企業の私物だが,平和的緊急時にこういった映像を使えるようにすることは,もはや独自技術を持たない日本にとって必要な政治力ではないだろうか。しかしその政治力がまったく期待できない 岸田首相の外交力が残念だった件--この際,安倍,森,だれでもいいから交渉すべき - jeyseni's diary (hatenablog.com) 2022/4/16。

 日本独自技術として,次期気象衛星「ひまわり」に超高解像度監視カメラを搭載させることを提案したい。気象衛星静止軌道にあり,日本の上空でおそらく唯一,場所を確保している衛星である。これに気象観測だけでなく,日本が必要とするさまざまな映像解析の機能を併載させることである。

 1つ目は,リアルタイムの交通動静の把握である。単に渋滞状況を把握するだけでなく,犯罪車両の追跡にも利用する。色,車種が特定できる程度の,欧米の軍事衛星以上の解像度が必要になるが,2個ぐらい作る技術は日本にも残っているのではないか。

 2つ目は,リアルタイムの災害状況の把握と災害予測である。これまで研究者がアメリカの人工衛星ランドサットの画像で解析していた画像を,静止衛星のメリットを活かして微小な変位から災害の兆候を分析し予測し,警報を出す。

 いずれも,今回の知床半島観光船事故などのケースでも状況把握に役立つはずである。

 そして3つ目が,北朝鮮,中国,ロシアからのミサイル把握である(2021年までは北朝鮮しか念頭になかったが,2022年時点では,中国,ロシアからの危機に対して名指しせざるを得ない状況にあるのが,非常に残念である)。イージス艦もイージス・アショアも結局配備されず,せっかく配備されたスカイホークもおそらくまだ試験中(あるいは操作勉強中)ぐらいで,いつ間に合うかもわからない。観光船沈没事故に寄せて書いたブログの中で,「ひまわり」の画像の中にミサイルの航跡と思える画像があった件を書いている。発射時の赤外線も含めて,北朝鮮付近は1分間隔で画像を取得してリアルタイム解析すれば,少なくとも飛翔体の進路を予測できるのではないか。いつまで経っても,「アメリカと韓国に情報を問い合せ中」と言っているうちに,本当に被災してしまう。

 ウクライナ侵攻で,アメリカはロシアに対する経済制裁ウクライナに対する資金援助は表明したが,武器供与はしていないし,ウクライナ近郊に部隊を派遣もしていない。同様に,日本侵攻が行われても,アメリカ軍がすぐに反撃するわけでもなく,まして日本にある米軍基地から日本国民を守ってくれるわけでもない,ということが明確になった。仮に日本が標的になったとしても,「どこそこから発射された核弾頭搭載ミサイルが,日本のどこそこに落ちて爆発した」という情報が,数時間後にもたらされるにすぎない。そのときすでに,数百万人の国民が死亡していてもである。

 1ヶ月に7発も8発もミサイル実験されて標的にされているにも関わらず,J-アラートが一度も鳴ったことがない。現時点での運用では,J-アラートが鳴るのは日本が被弾する直前だけであり,警戒することも避難準備をすることもなく,ただ攻撃されるのを待っているだけである。

 少なくとも,北朝鮮の固定ミサイル基地だけはリアルタイムで監視できるシステムを早急に,しかも自前で,構築すべきである。これは自衛隊の「自衛反撃能力」(敵地攻撃能力)を議論する前に,明確な「自衛力」として持つべきシステムである。

 実際,ウクライナ侵攻をめぐるロシア軍の動きやウクライナ国内の様子などの「衛星画像」が,「フェイクではない」と言い切れるだろうか。軍用車両の隊列だ,と言われればそのように見えるが,画像処理した可能性をまったく否定することはできない。何しろこれも「情報戦」の一部である。自国を自ら破壊して他国のせいにするなどのリアルフェイクも行われている。何が真実なのかを見極める手段を,蚊帳の外の日本は持ち合わせていない。

 せめて,日本防衛を「日本人だけが信じられる情報源」で実現することに,資源を集中することを提案したい。日本独自の日本防衛用監視映像を取得する技術の開発と実現が急務である。

【追記】同日,海上自衛隊の水中カメラで,水深120m付近に沈んだ観光船が確認された。