人間は,仕事という緊張状態をどれほど長く続けられるものだろうか。たとえばいわゆるサラリーマン。オフィスワークでも工場ワークでも,拘束9時間,昼食休憩1時間として,午前,午後の4時間の間の緊張状態には,業務によって差がある。
たとえばコールセンターでは,複数の担当者が持ち回りで次々に掛かってくる電話問い合わせに対して待たせることなく,スムーズに対応できるような体制が取られている。それでも処理能力を超えて掛かってくれば,1件応対が終わっても続けて次の応対をすることになる。コールが鳴り続ける中で,ずっと緊張状態が続く。
かといって,問い合わせがない間も,自由時間というわけではない。対応品質の向上のためにマニュアルを読み返したり,スムーズな応対ができるような資料の整理をしたりと,業務に関連する取り組みをすることが求められる。
工場でのモノづくりや,物流センターの仕分けなど,ベルトコンベアのペースで仕事が続くケースはさらに厳しい。規定時間内に作業しないと,すぐにラインが停まったりモノの流れが詰まってしまったりする。最大の効率が求められる中で,ちょっとした気持ちの息抜きをするのは容易ではない。
クルマのドライバーや電車の運転士,航空機のパイロットなど,乗り物の運転をする仕事はさらに過酷なこともある。一瞬の気の緩みが事故につながり,自身や相手の生命にも関わる。乗客を乗せている場合はさらに緊張した対応が必要になる。それでも,停車中や一定速度で走行・巡行中は,気の緩みが起きやすい。運転中にスマホを触ったり画面をじっと見たりすることなどは当然あってはならないが,一般ドライバーならある程度許されている音楽などのラジオやCDなどでの視聴も,特に乗客を乗せるタクシーや電車では禁止されている。連続した運転中,ずっと緊張しっぱなしというのも,酷な気がしないでもない。
日本郵便の不適切点呼問題に端を発して,ドライバーやパイロットのさまざまな不具合が浮き彫りにされているのだが,その流れで業務中の態度をすべて記録・監視することについて議論も持ち上がっている。
そのツールとしては,GPS位置情報をベースとした加減速の記録から,急発進,急加速,急ハンドル,急ブレーキなどの異常運転を検出することに加えて,ドライブレコーダーで運転者の姿を記録し,脇見運転やスマホ操作,居眠りなどをチェックして指導するというところまで提案されているようである。管理側がすべての映像をチェックする代わりにAIで画像分析して点数をつけるシステムもすでに開発されている。
新型コロナ禍で一部で実施された在宅勤務でも,仕事をしているかどうかのチェックをオンラインで監視したり,着座しているかどうかをセンサーで監視したりする仕組みを取り入れた企業もあった。アメリカでは警官による過剰な取り締まりが問題になったことから,胸に動画カメラを取り付け,追跡状況などを記録するのが当たり前になっている。日本でも不当逮捕などを防ぐために採用される可能性は否定できない。
航空機では,事故の際の原因究明のためにコクピットでの会話や管制塔とのやり取りなどの音声を記録するボイスレコーダーが使われている。実際は,業務上のやり取りだけでなく,世間話なども録音されているのではないだろうか。中には不適切な会話も録音されている可能性はあるが,表には出てこないだろう。
お客様や他人の目がある仕事では,常に仕事をしていることをアピールしていないと,「サボっている」と言われかねない。動作をしていなくても,まっすぐに立ってきちんとしていることが求められる。おかしな動作をしていると,昨今では写真や動画に撮られてSNSにアップされかねない。しかし,仕切りがあったり,別室だったり,また人前にいない瞬間に,私用の電話やスマホ操作などをしてしまうことはあるかもしれない。多くの企業では,作業場へのスマホ持ち込みを禁止しているが,管理が甘いケースも見受けられる。
まして,一般事務業務でパソコン仕事をしているような場合,スマホを見たり,パソコンのメイン画面の裏で個人的なサイトを閲覧したり,といったことは十分ありえる。業務用のパソコンで個人メールのやり取りをするケースもあり得る。通常は目をつぶっていると思われるが,たとえばコンピュータウイルスへの感染など,業務に支障をきたすケースも起きないとは限らない。ここでも,パソコンの稼働状況を完全にモニターして監視・管理する企業も少なくない。
こういう問題について,「コンプライアンス」(法令遵守)という言い方がされる。雇用関係にあったり,契約関係,取引関係にある場合,守らなければならない事項を申し合わせる。業務に関する秘密を持ち出すことから,セクハラ,パワハラなど,多岐にわたる。現在モヤモヤしている国分太一問題は,何がコンプライアンス違反の対象なのか,やはり明らかにしてほしいところである。
ほかにも密室状態で中で何が行われているのか分からない世界もある。上下関係が明確な学校(先生と生徒)や,警察,自衛隊などの階級組織の中のハラスメントも,跡を絶たない。さらに政治の世界になると,もはや一般人にとっては蚊帳の外である。利権が絡む業界との間も,ドロドロしている。監視などの概念は成り立たない。
一般人も,常識を外れた行動を取っている可能性はある。歩行者の信号無視は自己責任だとしても,いよいよ自転車の運転には2026年4月から罰金が科せられることになった。
理想論を言えば,スマホのGPS機能で1人1人の行動状況を把握できれば,高速道路の逆走やあおりなどの不正運転を検出できるだろうし,昨今の低高度人工衛星を使って常時監視することも可能な時代になっていると考える。ただ,プライバシー問題を持ち出すと話がややこしくなる。
ビッグデータを人間が管理すると,忖度や改ざんが起きるのは目に見えている。AIが適切に判断して,適正レベルの行動と違法レベルの行動を振り分けて,管理・監視する社会が必要なのかもしれない。国が管理すると,とんでもない事態になるのは,すでに隣国が証明している。